Shinya talk

     

 

2019/02/20(Wed)

自虐テロリズムとしての不適切動画。

10年前のことだが、仕事関係でやってきた民放のテレビの女性ディレクター(当時20代)と四方山話をしていて少しショッキングな話が出た。



彼女が10代の時にファストフード店でアルバイトをしているとき、嫌な客がいた。そこで彼女は厨房から盆を運ぶとき注文を受けたポタージュスープに唾を入れてテーブルに出したというのである。



彼女は笑い話に軽く言ったつもりらしかったが、教養のある彼女がそのような行いをしているということに多少のショックを受けた。

その時は顔には出さず、そのまま仕事上の付き合いは続いたが、その女性のことを思うと記憶に刺さった小さなトゲのようにそのことを思い出すのである。

女性の行いは特殊なものと思いたかったが、その一件を知ってこのような行いはあんがい人知れず行われているのではないかとの思いを抱くようにもなった。







このたび不適切動画なるレストランの厨房での食品を汚す悪ふざけ動画が流されたとき、真っ先に思い出したのはそのことだった。

だが彼女の行為と今回の件とは異なる部分がある。



それはターゲットが違うということだ。彼女のターゲットは客である。だが今回の動画の青年(あるいは少年)のターゲットは客ではない。

いやおそらく彼らは自分の行なっている行為は単なる悪ふざけに過ぎず、ターゲットがあるということは意識の中にないのかも知れない。だが不規則行為というものには必ず動機があり、そこに動機があるとすればそれはおそらく彼らが携わる労働の虚しさと、虚しい労働に日々勤しまねばならない自虐ではないかと私には思われるのである。



今回不適切動画の現場になったのはセブンイレブン、ファミリーマート、すき家、くら寿司、ビッグエコー、バーミヤン、大戸屋、などだが、いずれもそこに共通するのはチエーン店であるということだ。



チエーン店と聞けば各店舗共通の細密なマニュアルがあり、そのマニュアル通りに人間が動かなければならない人間のロボット化が必須条件となる。



またもうひとつその虚しさを補強するものがある。

それはそこに人間関係が見えないということである。



当然そのような分散型の大きな組織ではもとより統括している人間の姿は見えない。

店舗によっては店長以下全員バイトか派遣社員というところもあり時には店長すら派遣社員ということもある。

つまりそれは集団生活に必要な人間の絆やトラストや情の関係が築かれていない虚無的集団であると言える。

さらには、人間の歴史においてかつてこのような虚無的集団は存在し得なかったとさえ言える。











加えて昨今の世の中の労働環境の劣悪さがこの虚しさに追い打ちをかける。

例えば日本とスケールの似た国のイギリスで一時期暮らしていた若者に聞くと政府で取り決めている労働賃金が日本円に換算して時給は1300円以上(違反した場合厳重な罰則がある)と高レベルであり、しかも向こうにはチップ制があるので若者の生活は結構潤っているそうだ。



だがこの日本では派遣労働者やバイトの賃金体系は低く、目一杯働いて月13万〜15万の稼ぎで何とか食い繋いでいるという事例は枚挙にいとまがない。

ちなみに大戸屋の時給は850円程度、労働のための私用の靴持ち込みは禁止で配給される靴は買い取らねばならず、給料から天引き、交通費は一日500円で超過した場合は自腹。朝礼のために15分前に集合だがこの15分間はスキャンの対象ではないなど、薄給の上理不尽な出費を負わされている。



今回の動画は24時間で自動削除されるインスタグラムのストーリーを使っており、フェイスブックと同じく限られた仲間同士で視聴する仕組みになっている。

そこではおそらく虚無的労働を低賃金で働かざるを得ない現代の典型的な貧困青少年のクラスター(房)が存在し、そのクライアントをあざ笑うような跳ね上がり分子の投稿動画を見て互いに傷を舐め合うように面白がる自閉集団が目に見えるようだ。



つまり以上のようなことを考えると、この不適切動画というのはいかにも日本的事件(現象)であり「働き方改革」という美名の元、大企業優遇と若者の奴隷化に邁進する、すぐれて安倍政権下的現象(事件)とも言えるわけであり、こう言った為政が続く限り今後さらにエスカレートした自虐的テロリズムが起きうる可能性もあるだろう。






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